第1章 最終話 つのる想い
一人ぽつんと残った陽一は肩を落とした。
いつ会えるんだろう。けれど、晶は約束した。また、会えるって。
それに、俺……。
自分の気持ちを伝えていなかった。
俺、今なら、はっきり分かる。
晶のことが好きだ。
陽一は心で言った。言ってからひどく照れて頭を掻いた。
この照れくさい告白が届いたかどうか分からないけれど、たぶん、分かってもらえている。
「ねえ、夜久弥」
鬼が、夜久弥の袖を引いた。
「早く陽一をおうちへ送ってあげようよ」
「了解」
夜久弥が言って、陽一の肩に手を置いた。
「さあ、還ろう、陽一くん」
「夜久弥さん、いろいろ迷惑かけちゃってすみませんでした」
「何言ってるの」
夜久弥が笑う。
「僕は鬼が来てくれたから、本当に嬉しいんだ。ありがとう」
鬼は、夜久弥のそばにくっつくように立っている。
金色の長い髪と赤い瞳をしている鬼は、まるで幼い晶を見ているような感覚だった。
そうだ。俺は結局、陽一郎の記憶を取り戻さなかった。
「ねえ、夜久弥さん、俺、まだ知らない事がたくさんあるような気がするんだけど」
「確かにね。ハンターたちの謎も解明できていないし。でも、これからの君はたぶん、以前の君じゃないと思うよ」
「え? それってどういう……」
「さあ、還ろうか」
鬼が駆け寄って、陽一のシャツを小さな手でつかんだ。
「陽一、おうちに帰ろ」
鬼が嬉しそうに笑った。
黄泉の国へ行く時は怖い思いをしたのに、自分の家までは一呼吸だった。
気づけば家の前にいて足が地面についているのを感じると、陽一はすぐに空を見上げた。
月は見えない。新月だからだ。けれど、さっきまでは真っ暗だった空に小さく光る星が見えた。
「じゃあね、陽一くん」
「あ、待ってください」
「ん?」
「ありがとうございました」
深々と頭を下げた。
「うん。よかったね」
「あ! 鬼……鬼って言いにくいな。お前も元気でな。名前、付けてもらえよ」
「バイバイ、陽一」
鬼はそれだけ言うと、夜久弥と共に消えてしまった。
晶……。
名前を呼ぶ。けれど、もう
もう一度、空を見上げる。あの空の向こうに晶はいるんだ。
「晶……」
呟いてから、陽一は一度うつむいた。
会いたい……。
そう思ったら、涙が出た。
本当にまた、会えるのかな。
考え始めたら怖い。けれど、約束したから。
陽一の頭の中から晶が消えることはなかった。
俺は絶対に忘れない。忘れたりしない。忘れるものか、と、晶の名前を呼んだ。
きっと、この声が届いていると信じている。
俺、ずっと晶のこと思っているから。
第1章 終わり
―――☆彡―――☆彡――☆彡―――☆彡―――☆彡――☆彡―――☆
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
次回から、第2章となります。
第1章では明かされなかった三つの宝玉の謎と陽一の中にある黒水晶のお話となります。
また、お時間のあります時、のぞいていただけますと嬉しいです。
本当にありがとうございました。
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