第275話

「ちょ!先輩!罪を犯した覚えのない私がいたい、痛いです!」

 

「あ、ごめん春風!ちょっと当たり散らしたい気分だったから。」


「先輩のむしゃくしゃを手頃な人間で利己的に解消しないで下さい!」


「ならセクハラしてい?」


「目の前にいる手頃な眼鏡にしたらどうです?!」



で、六神がなぜか私の口元に向かってホットチリソース into パクチーオンリー生春巻を素手で寄せてきた。



さすがにそれは無理。いや、だから。なぜ私か。



「だめだ、俺のイライラがおさまらない」


「私の尊厳を敬って!」


「手頃すぎてストレスを解消しやすそうな顔してるもんね、春風!」


「手頃な顔を今すぐ整形しにいくんで離して下さい!」



隣の先輩が左手で私の両手をまとめてつかみ、右腕を私の首に回して頬をつかむ器用さ。その器用さはどこで培ったのか、無理矢理口を開けさせようとしてくる。



何だこの馬鹿力。明日の最高気温よりも現在の先輩の握力が気になる。



「あの、そうやって二人がかりの拷問を鑑賞したい気持ちはやまやまなのですが、」



堀田さんが一人、マイペースを保ったままお祭り騒ぎの私たちを見る。



「彼氏だとか、過保護だとか。詭弁で俺を牽制するのはいかがなものかな、と思うんです。」


「……はい?」



おしぼりで手を拭きながら、ふふと笑う堀田さん。なぜか先輩と六神を交互に見て。やれやれとため息をつく。

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