第273話
「ねえ、堀田さん。最近ワークライフバランス推進企業にも認定された味八フーズ㈱の現場監督兼営業企画部係長の堀田月麦さん。」
「なんです?アッパーさん。」
「うちの付き合い長い客だからって、僕の前で堂々と春風を口説きにかかるのは度胸でも勇気でもなく無謀だってことは分かってる?」
「突如現れるアッパーなタメ語、そこそこの圧力です。」
「そうやってどこでも誰にでも敬語を使うのは、自分が常に冷静でいたいからだよね?堀田さん。」
「そうですね。朋政さんの言う通りです。」
いきなりどうしたというのかアッパー。いつもなら誰よりも冷静…?というか常に頭がお祭り騒ぎの先輩が、堀田さんに凍てつく空気で対抗している。
六神に対して、よりも、それはもっと高圧的なものに感じた。
「、ですが。」
堀田さんが眼鏡を外しテーブルに肘をつく。なぜか再び私を見つめてくるので、お箸でつまんでいたレモングラスを添えたはまぐりをお皿に落としてしまった私。
なんとも妖艶さを放つ口角の上げ方で、その薄めの唇を開く。
「実来さんと電話で話していたり、今みたいに実来さんを前にしていると、時として冷静でいられなくなりそうな自分がいるんです。」
「……え、」
「だから、俺の願望もたまには叶えてよね、実来さん。」
「………いや、あの。」
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