第269話
やばい。六神が怒っている。いや何度も怒らせてきたから私はもう慣れっこだ。大丈夫。本当に?もう今は開き直って、ゆがみVS能弁メガネを鑑賞しようではないか。
「全ての経緯は実来さんのミスにいきつきます。」
「おいいい」
「だって、そうでしょ?実来さんさえあの冷凍柚子皮を全解凍しなければ、こうしてまたお会いすることもなかったわけですし。」
もう絶対に“そうですね”なんて言ってはやらない。
隣に座る先輩が、私の口に生春巻きを持ってくる。自然と口が開いて、エビとスイートチリのハーモニーを堪能すれば、私は天にものぼる気持ちで朗らかな顔になった。
「僕のナマ春巻き、おいし?」
「おいしーです先輩!って先輩!手で食べさせないで下さいよ不衛生な!」
「先輩の手があたかも汚いみたいな言い方やめて」
「いや汚職しまくりで汚いのはいつものことじゃないですか」
ゆがみVS能弁メガネどこいった?
目の前に座る六神は、今日も先輩を哀れな目で見つめている。
てかこの座席のポジション怖いわ。堀田さんと先に入ったはずなのに、隣に朋政先輩、向かいに六神って。どんな移動スピードの椅子取りゲームだよ。ダルシムもびっくりの移動距離だわ。
「お二人は仲良しカップルなんですね。」
「へ?」
「こうして取引先である俺の前でも平気で戯れ合えるなんて、まさに未知との遭遇です。」
いやいや未知との遭遇は私もですけど。それよりもなにか勘違いをしている堀田さんに私が否定しようとすれば、先輩が間髪入れずに割り込んでくる。
「ありがとう堀田さん!その身にあまる言葉は今後御社の発展と活躍に貢献されるものだと心から願っているよ!」
「光栄です、朋政さん。」
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