第268話

「4名様でよろしいですか?」



………は?はい?



堀田さんが私に笑いかけて、後ろを指差す。そっと後ろを振り返れば、



「いいともー!」



と、頭の湧いたスパダリが声を上げた。



しかしその隣にはとんでもない猛獣が、ドス黒いオーラをまとい私に睨みを利かせる。



「………そこの実来春風サン、そのひょろメガネとベトナム旅行にでも行く気デスカ?」



ひょろメガネが「ぶふッ」と笑いを溢し、「あーおもしろ」と楽しそうに言って。



私は前を向き、その綺麗な店員さんに満面の笑みでこう伝えるしかなかった。



「一旦CMでーす。」



こんなにCM明けが待ち遠しいと思ったことが、今だかつてあっただろうか。




これだけオープンな店なのに、よりによって逃げられない一番奥の席に案内された私たち。大きなチョウチンランプが吊るされており、壁には笠みたいな形のベトナム帽子が並んでいる。



朋政先輩がベトナム衣装、アオザイを着る店員さんを見て、「肌見せない服なのに胸は強調されてるのがえろいよねー」とビールを飲みながら言った。みんな無反応。



ちなみに乾杯は省略されている。そんな飲み会怖すぎ。



「……で?なんで味八フーズのメガネサンが春風とご一緒で?」



六神が私に聞くより、六神の隣に座る堀田さんに直接聞いた。私には目を合わせようとしない。

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