第267話

「人生、徳を積んでおくのも悪くないですよ、実来さん。」


「はあ。徳って。堀田さんとご飯に行くことですか?」


「いえ。俺にこうしてシールを持って来てくれたことです。」



嫌な予感。



私は勘がいい方ではないけれど、その日は色々圧力をかけられギンギンに冴えていた。



「も、もしかして……いや、ま、まさか。そんなー。堀田さんのようなお人柄が、ねえ。」


「え?なんです?もしかして、俺がわざと違う商品のシールを入れたって思ってます?」


「い、いえまさか!」


「わざと違う商品のシールを入れて、実来さんと会う口実を作ろうとしただなんて。そう思ってます?」 


「自意識過剰でさーせん!思ってます!」



堀田さんが、オープンテラスが並ぶ開放的なベトナム料理店に私を促す。



そしてふふっと笑いながら言った。



「自意識過剰ですよ、実来さん。」



自意識過剰だったんかーい。



「もし俺が本気で実来さんを口説こうと思っていれば、こんなオープンな店には来ませんし、」


「そーですね。」


「俺が実来さんを酔わせようと思っていたら、あなたの過保護な保護者の目の届かないところでしかしませんし、」


「そーですね……え……?」



堀田さんの言った意味が理解できない私。堀田さんに問い詰めようとすれば。

 


ベトナム人かどうか分からない、綺麗な彫りの深い女性店員さんが指をつくり言った。

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