第265話

「あなたがしたミス一つで、一年だった賞味期限が半年も縮まったことにより、カナダの先方は販売価格を今までの2割も引いて販売することになりましてね。」


「え!そ、せ……すみませ……」


「そのしわ寄せがメーカーである弊社にもきてることを充分肝に銘じて頂いた上で、俺への誘いを断って頂ければと思うんです。」



堀田さんが、綺麗に目を細めて私に笑いかける。眼鏡をかけても人格は振り子のように切り替えられるらしい。さすが眼鏡キャラ。



それにしても堀田さん、尊敬語が重複しすぎだよ。実来春風、27年生きてきましたが、敬語男子に初めての威圧感を感じております。



私は嫌嫌、いや、選択権を与えられないまま堀田さんとご飯に行くこととなった。



そして、これでもか、と堀田さんは私に圧を被せてくる。



「といいますか。むしろコーヒーを断らずしてご飯は断るとか、理解しかねます。」


「…………そう、ですね。」


「断りたいなら、最初からコーヒーも断ればいいと思いません?」 


「…………そうですね。」


「ご飯は、ベトナム料理でもいいですか?」


「いいともー!」


「じゃあ一旦CMでーす。」



ノリは悪くない堀田さんは、ふふっと笑いを溢して、また世間のとりとめのない会話に戻した。



私は今、何を見せられていたのだろう。

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