第262話

𓂃◌𓈒𓐍




「すみません実来さん、わざわざ持って来させてしまいまして。」


「いえいえ!こちらが迷惑かけて堀田ほったさんのお時間を取らせてしまったわけだし、」


「ですが俺も不注意が多くて、」


「いえいえ私の方こそ」



大人の、引いて引いてのやり取りが甲斐甲斐しく行われる裏通り。



普段電話でのやり取りでは自分のことを“私”という彼。



私用になると“俺”になるんだあ。へえ、細身で爽やか眼鏡の堀田さんのイメージが少し変わったなあ。



悪くない。悪くないよ堀田さん。

  


思い出したくもないのだけど、冷凍柚子皮の件で私が味八みはちフーズに迷惑をかけるという事件があった。



その際、貼替え用のシールが入った紙袋を受け取ったのだけど、その紙袋には違う商品の一括表示シールも入っていたのだ。



今私はそのシールを彼、堀田さんの元まで届けに来ている。



ただここは味八フーズの最寄り駅でもなく、どちらかというと繁華街に近い場所で。





私は堀田さんに、違う商品のシールが入っていることを伝えるために電話をした。



そのシールを郵送で送ろうかと思っていたのだけど。



堀田さんから、「わざわざ郵便代使ってもらうのは悪いので取りに伺います」と言われたのだ。



そんな人が良すぎる堀田さんに、私は、『こっちのミスで先方に迷惑かけるな』という朋政先輩の言葉を思い出し、「途中まで持って行きます」とつい言ってしまった。


 

どっちがどっちのミスかも分からない状況になっているけれど、味八フーズの堀田月麦ほったつむぎさん30歳は


「それならせっかくなのでコーヒー一杯でも奢らせて下さい。」


とさらりと誘ってきて、私もつい「あ、はい。」と返事をしてしまったというわけだった。

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