第255話

え?メモリカードに落としたのになんでまだスマホに入ってんの??理解できないわ。



しかも画像は私の水着姿だけじゃない。浴衣姿のも負けず劣らずの量が撮られている上に、なんなら寝ている寝顔画像まである。



「彼女なら隠し撮りにはならないもんね?」



ふふっと笑いながら言う六神の私の画像を見る目は、程よく涙ぶくろを誇張させている。



今の理屈を大脳生理学的見地から言ってしまえば、恋とゆがみは紙一重だということなのだろうか?



何が凄いかって、池駒とまゆゆとも一緒にいたにも関わらず、一切彼らが見切れている画像がないということだ。



私が「撮り方が器用すぎる」といえば「プロですから。」と返してきた。



運転席と助手席に座る池駒とまゆゆはまだ喧嘩中のようで、まゆゆが池駒のためにどれだけ高い下着を買ったかを説明していた。



あれ?普通のカップルってどんなんだっけ。



前の喧嘩ップルを見て、六神が私の肩に頭を置く。

 


「俺ら仲良しだね」

 

「…う、うん」


「もう一生離れらんないね。」

 


「永代供養で一緒の墓でいいよね?」と死んだ後のことまで持ち出してきた。まあ永代供養はいいけど、昨日の“捨てない”合戦からどうも思考が突き抜けてしまっているらしい。



六神のスマホにふと目をやれば、メモアプリになにかを書き込んでいる。



『春風かわいい春風だいすき』

『はるか春風春風春風春風』

『春風の匂いが俺にうつる瞬間最強すぎて草』

『春も風も小学校2年生で習う漢字』

『でも俺は3才で習得したから』



六神が「あとから要約してメッセージ送るね」と言って、私はうんともすんとも言えなかった。今私はシュールなホラー映画を見ている気分だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る