第247話
「農政局は、元々一年で辞めるつもりで入った。」
「………え、」
「春風を傷つけた佐渡を、許せなくて。」
「……どういうこと」
「あいつ、農政局の局長が学生時代の先輩だとかなんとかで。パイプがあるから俺に受けてみないかって声かけてきたんだけど」
ああ、さっき先生が、局長とのパイプがなくなったとかなんとか言ってたけれど。
「佐渡を陥れるために、たった一年で辞めて肩書に泥を塗ってやったの。」
「……え、だって、農政局って。そんなに簡単に入れるようなとこじゃないじゃん!」
「うん。春風を傷つけたのがどうしても許せなくて。ほんと、そのためだけに試験勉強頑張った。」
「………」
「どう?…俺って、えらい?」
平然そうに言う六神。でも私の足を持つ手は、確実に震えていた。
それでもやっぱり私は、六神に助けられてばっかりだなって思いが強くて。愛が異常に重すぎる事実に目を向けるよりも、悔しいだなんて感情を抱いてしまう私は、とっくの昔に毒されてるんだ。
ゆがんだ六神に。
「こうして、馬鹿みたいに気持ち悪い行動で取り繕わないと、春風に本当のことも言えない俺ってさ。全然春風よりも後ろにいんだよ。」
「……え?」
六神が、その気持ち悪い行動を示すかのように、私の足を頬に擦り寄せた。
「わかんない?かかとあげて手え伸ばして、人生棒に振るくらい必死になってる俺が、傍から見てどれだけかっこ悪いか。」
「………」
「同じ目線に立ちたいって思ってんのは、俺の方じゃん。」
「……そ、そんな」
「もしあの時春風に声かけられてたらって。面と向かって好きって言えてたらって。どれだけかっこ悪い姿晒してきたと思ってんの。」
「………」
「どうにかして春風の元に行きたいから、こんな馬鹿みたいな遠回りしてんだよ俺。」
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