第243話

エレベーターの中でも私は震えていて、二人きりの空間でも六神が寄り添うようにいてくれたと思う。部屋まで自分がどんな心境で、どんな風に歩いて行ったかは覚えていない。



部屋に着けば、六神が冷蔵庫に入っていたペットボトルの水を渡してくれて。畳で座布団の上にも座っていない私は、ただ手の中で冷えていく温度を感じ取っていた。



そんな怯えたような私を見てか、六神がそっと抱きしめてきた。



  

「……大丈夫、俺がいる。」


「………」


「ずっといるから。」



この状況で、大好きな人にそれを言われた私は、どう素直に受け取ればいいのか。



大丈夫ってなに。なんで、そんなあたかも。私と佐渡先生の過去を前から知っていたかのような……――――――



ペットボトルを握りしめ、六神に問い詰めた。



「……うそ、でしょ…。知ってたの?」

 

「…………」


「知ってたの?私と先生のこと…」


「…………」



何も言わない六神。喧嘩した時の“だんまり”のそれじゃない。私があまりにも居た堪れなくて、返す言葉がみつからないのだろう。



六神の胸を押して、距離を取る。



「ねえ、どういうこと?…ちゃんと、説明してよ」



顔を見れば、明らかにやるせない哀れみの目を向けられて。



私ばっかじゃん。



私ばっか、かっこ悪い姿見せてる。



目を離さず問い詰めれば、六神が一呼吸おいてから口を開いた。

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