第242話

ゼミの先生だし、推薦されて農政局を受けたと言ってたから、佐渡先生にとっては六神のことが印象深いのだろう。だって、私なんてまるで見えていないかのように視線は一度だって合わない。



「引き抜かれた?左遷じゃなくて?」



六神が淡々と先生に返して、その声が、あまりにも重低を奏でる声色で。



言葉の意味なんて理解できないまま、背筋が凍てつくような思いに身を強張らせた。



「君は、変わらず僕を馬鹿にすることを厭わないんだね」


「馬鹿にしてるんじゃなく、あんたの罪を真っ向から暴いてるだけですよ」


「…そうか。じゃあ君が農政局を辞めたのは僕の罪だとでもいうのかい」


 

今までに感じたことのない六神の威圧感と、思い返したくもない非情な過去に脚がすくむばかりで。質を伴わない心が、上手く頭に追いつかない。



それでも六神は、私を守ろうと一歩前に立ちはだかってくれていたように思う。その意味が、どんなものかも知らずに。私は繋がれた手に縋るしかなかった。



 

「君のせいで局長とのパイプもなくなってしまってね。教授の中でも底辺にいる僕には、それがどれだけ大事なものだったのか君には分からないだろうね。」


「それは残念でしたね。」


「…君とは、もう二度と会わないことを祈るよ。」



佐渡先生がロビーの人混みへと消えていく。



最後まであの人は、私に目をくれることはなかった。

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