第240話

だから、色々怖いんだ。同じ量の好きを抱えてきたはずなのに、同じ位置に立てない私にいつか愛想つかすんじゃないかって。



恋ってどうしてこう、はあ。ひたすら臆病で矛盾を生むのだろう。

 

 


「どーした?疲れた?」



六神が私を覗き込む。一見無表情でも、やわらかい声で私を優しく気遣う六神は、私に恋しているのだと自負するには充分だ。



私にはゆがんだくらいの恋でいいんだ。その方がきっと安心できる。



ぎゅっと六神の手を握って、「大丈夫だよ」と笑顔で伝える。六神が私の頬にキスして「良かった」と返してくれる。ゆがんでたって、やってることは普通のカップルと一緒なんだよ。



「明日はどうする?お昼だけどっかで食べて早めに帰る?」


「10時チェックアウトと共に風と共に去りぬ。」


「え?早すぎない?」


「俺と早く二人きりになりたくないの?」


「今なってるじゃん。」


「なってない。ほら、あそこにいる男が春風をローアングルから望遠レンズで激写してる。観光地こわ」


「よく見なよ。あれはよちよち歩きのベビーを撮ってるパパじゃん。」


「俺もよちよち歩きの春風を抱っこしたかったしなんなら育てたかった」


「…(ひき気味)…」


「うそうそ。うそだって俺のこと好き?」


「…う、ううん」


「どっちつかずな返事やめたげて」

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