第239話
芝生に立つ時計塔が20時を指して、何重曹かのオルゴールが響き渡る。六神が、ぜえハア言いながら戻ってきた池駒の肩を叩いて言った。
「はい、ここから俺らの時間なんで。」
「はいはいカップルの時間ね。さっきも充分楽しんでた癖によく言うわ。じゃあ俺は一服してくから。」
池駒とまゆゆに手を振り、六神と二人でホテルに戻ろうとすると。後ろからまゆゆが「ぱる〜」と私を呼び止めた。
「なに?」
まゆゆが私の手をつかみ、引っ張って、六神から微妙な距離を取る。私の耳元に手を添えてくるから、「なになに」と本題を急かした。
「ぱるる、六神には気をつけなね。」
「え?」
「メッセージのこととか、無駄に長く片思いしてたこととかさ。」
「今さらじゃん。」
「だから、ぱるるが六神に毒されないように気をつけなねってことよ。」
まゆゆがそれだけ言うと、すぐにまた池駒の元に駆けて行った。
ああ、誰かにもそんなこと言われたな。まゆゆの言葉で、誰かさんの言葉を思い出す。
「春風、まじな話、」
「六神君には気をつけてね?」
「彼、思った以上にゆがんでるわ。」
ゆがんでいるのは知ってる、うん知ってるよ。だって私に会うためにわざわざ公務員退職してきたんだよ?充分伝わってるよ。
でもね、六神は私の前にも付き合ってる彼女がいるわけで。きっと彼女たちにもゆがんだ六神を見せてきたはずなんだよ。ゆがんだ愛情を向けられたのは私だけじゃない。
それが原因で別れた可能性は大きいけれど、今さら私がゆがみくんを抱えきれないほどちっぽけな女だとでも言いたいわけ?
私だって六神に片思いしてきた重さは、六神の片思いの長さに匹敵するんだから。
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