第238話

夕飯を食べ終わって、少し外を歩こうと4人でホテルの敷地内を散策する。もうすっかり暗い中、都会では味わえない虫の音や星空が堪能できる。



前に付き合っていた人は高校時代に一人だけと言っていた。佐渡先生のことを六神に伝えていなかった私は、六神の機嫌をとろうと今更ながらに適当なことを言ってみた。



「六神、浴衣似合ってるね。男の浴衣っていいよね。うん、最高にイケメンだよ君。」



私たちの前を行くまゆゆと池駒は、酔っているのかお構いなしに手を繋いでいる。



六神もそれを見てか、私の手をそっと握る。



「春風もね。転んだ瞬間にめくれた浴衣はやばかった。知らんおやじにガン見されて池駒で攻撃しそうになった。」


「池駒って武器になるの?」


「静止して黙ってればね。」


「その武器、池駒である必要ある?」



「おーい武器にされるくらいならポケ○ンにされた方がいんですけどー!」


「池駒に決めた!なんて言いたくないよな」

「持ち歩きたくないしね。」

「常に瀕死そう」



ふてくされた池駒が、追いかけてと言わんばかりに走り去る。でも誰も追いかけなかった。



六神が思っていたよりも普通で拍子抜けだ。絶対に大学での付き合いを問い詰められると思っていたのに。

 


いやむしろ問い詰められた場合、私はどう答えればいいのか。ドヤ顔で「佐渡先生にやり捨てられましたけど何か?」と言うべきなのか……まさか、かっこ悪くてとても言えるわけない。



私の泣いている画像については、あれからお互い特に触れていない。冗談で泣き顔に興奮するとは言われても、詳細までは介入されない。



私も泣いていた理由を聞かれても嫌だし、きっと六神もたまたまあの場に居合わせて、魔が差して撮ったくらいのことなのだろう。



大学生とはいえ教授と生徒という立場で、しかも年齢が約20歳と親子でもいいくらい離れていた。もし六神が知ったら、六神は私を気持ち悪いと思うだろうか。

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