第233話

悪友の時の私の方がまだ私らしくいられたと思う。遅れを取らないよう必死についていって、卑屈っぽくも私らしかった。



男を優位に立たせてあげるのがあるべき彼女の姿だというなら、私は六神にとってこの先“あげまん”でなけれなばならいのだろうか。



あれだけ仕事も出来て、顔だけならイケメンだと言われる彼氏なのだから。



あえて一歩下がって六神を立てる?ああ、なんだかそれって馬鹿らしい。いつ捨てられたっておかしくない女の生き方としか思えない。


 



六神と激しいにゃーにゃーを終え、丸い信楽焼の浴槽に入り、富士山を眺める。どっとにゃーにゃーの疲れが生温いお湯に癒やされていく。




「今日一日で水に入ってお湯に入って、身体ふやけちゃうね。」 


「んー?どこがふやけるって?」


「もう、今したばっかじゃん!」



六神が私を前に抱っこして、身体全体を包むように閉じ込める。



「…春風と付き合ってから、ずっと夢ん中いるみたいだわ」


「頭ふやけた?」


「うんずっとふやけっぱなし」


「…どうしたの。千都世がやけに素直」


「素直な千都世は嫌いですか?」


「ふやけた千都世くんがわりと大好きです。」


     

六神にまた唇を重ねられて。湯船の温度が上昇し始める。湯気の白さがほのかに染まって、六神が湯気ごと私の舌を吸い上げていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る