第231話

私が群れに乗り込もうと階段を駆け降りると、スリッパが片方脱げてしまって。



あ。と思う頃にはすでに、くすんだピンクの絨毯が目の前にあった。



 

「はるかッ」

 



ベしゃっ


  


六神が手を伸ばしてくれるも、私は顔面から見事に落ちた。少女漫画のように上手くはいかないらしい。でもいいんだ。



六神が営業に夢中になっている最中でも、私という存在がいることに気付いてくれるその人感センサーがあるなら。いつだってキモくて怖いくらいの察知をしてくれれば。




𓂃◌𓈒𓐍




部屋に戻り、六神が私の額に濡れたタオルを充ててくれる。コーヒー牛乳は無事、実来春風は大惨事。



「安心して。階段から落ちる春風も絶対運命黙示禄的に好きだから。」

 

「そんな聖書並の少女革命を任ぜられても荷が重すぎます。」

 

「例え馬鹿みたいにありえない嫉妬をして、俺を喜ばせようという魂胆がみえみえだったとしても。」

 

「…そんな、魂胆とかって余裕はなかった。よ?」


「……」

 

「そもそも、あったら。あんな盛大に、転ばないし…」


「はい好きー」


 

六神が額のタオルを放り投げて、私に覆いかぶさりながら押し倒す。



そして私の耳たぶを甘噛みし、耳元で魅惑的なハスキーボイスでささやく六神様。



「…堕ちてくる春風を受け止められなくてゴ・メ・ン。誓約聖書に手を置いてホワイトハウスで宣誓するから」


「愛が重いな。」




クッキー缶物販の発端は、六神と池駒がお土産コーナーで見ている時に、店員さんにクッキー缶が売れないから買わないかと勧められたことにあるらしい。



目立つようにポップも作られているし、百貨店ブランドとしても申し分ない老舗のものなのになかなか売れないのだと。

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