第229話

まゆゆが手すりから身を乗り出し、「はあ?!」と険しい声を上げた。



「なにあれ?!もうやんなっちゃう!」


「え?なに?」


「また旭陽と六神が女に囲まれてる!!」



ギョッとして私も下の階を見れば、確かに池駒と六神が女性に囲まれている。でもよく見れば年齢層が少し高い。



「……おばちゃん多くない?」


「今の時代おばちゃんみたいな10代もいれば、おばちゃんみたいな20代もいるんだって!」



まゆゆが慌てて、走りにくそうにスリッパをパタパタと鳴らし降りていく。



そんな慌てなくても。六神がおばちゃんにモテるのは今に始まったことじゃない。



よく取引先やお店のおばちゃんなんかに「六神君が熟女好きならいいのにねえ〜」とお菓子を渡され不倫をほのめかされているのは知っていた。




「えークッキー?ちょっとさすがにお高くなあい?」


「でも見て下さい、この色とりどりに敷き詰められたクッキー。一つの缶で13種類もの味を楽しめるんですよ。」


「でも…さすがに3500円は高すぎよぉ」


「ですがそっちのお土産は10枚入で1000円ですよ?こういう観光地では当たり前の値段ですよね?同じ味が10枚の1000円と、13種類のクッキーが40個入って3500円なら断然こっちのがお得じゃないです?」



六神がなぜかお土産コーナーでクッキー缶を売っている。なにしてんの。  



しかも3500円もするあのクッキー缶。アンティーク調の缶の可愛さから、一時は行列ができるほど人気が出たスイーツだ。クッキーも珍しいスパイスを使っているものが多いから軽率に飛びつきたくなるやつ。



でもああいうのって、百貨店や高級店で売るからステータスを維持しつつ売れるのであって、わざわざ観光地でお土産に買っていく人は少ないんじゃ。

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