第227話

日焼け跡がヒリヒリし始めて、大浴場から上がって、脱衣所で浴衣に着替えている時だった。



『ねえ俺えらい?』

『聞いてんのはるかちゃ』

 

『日焼け跡に大切なのはアフターケアだって死んだ婆さんがゆってた。ちゃんと日焼け跡クリーム持ってきたから』

『えらくね?後からぬってあげ(ry。よかったねーいい彼氏で』



ナニコレ。というメッセージが立て続けにスマホに入っていて、もういっそ珍百景に送ろうかなと思った。



きっとみんなドン引きで登録もされないんだろうなとスマホを見ていると、まゆゆが深刻そうな声で私に問うた。


 

「ねえ、六神からのメッセージってそんなに来るの?」


「え?うん。そんなには来るよ?」


「…1日の具体的数値。」


「1時間に…4件は入ってくるから。1日にすると」 

 

「あーもういいわ。六神の腐った内情はそこまでにしとく。」


「あ、でも仕事中はさすがに入ってこないからね?」


      

因みにこれに電話が一日に2回ほど追加される。朋政先輩の鬼教育の下で育ってきた私なら全然耐えられる。



耐えられるのだけれど、返信できなかった時ほど面倒なものはない。



『ねえ俺の返信以外に何してたの』 

『なんで俺以外に返信することしてたの』



スマホのメッセージと連動できるアップルウォッチなら、すぐにメッセージに気付けるはずだからと、本当に買おうとした時はさすがに引き留めた。



いくらすると思ってるんだ。そもそも腕時計ならもうもらってるし。



だから面倒を回避するために、事前に六神には最大限の愛情表現を示さないといけないのだ。



『ちとせくんのこと考えながらお風呂入ってたら溺れかけて、まゆゆに「六神のこと考えすぎて死んじゃうぞ」って言われたから今出たよ大好きなちとせくん❥』



きっと今六神は池駒とお風呂に入っていることだろう。これでしばらくは来ないはず。と思っていたら。



『そもそも露天風呂付客室なんだからわざわざ福間と大浴場いく必要あった?俺と池駒はそれぞれの部屋で入ったし』



5分もしないうちに現代人でも読み取れるメッセージが入ってきて、私はがっくり肩を落とした。

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