第217話

そしてプールサイドに話を戻すと、

  


「お兄さんたち、不当寄附勧誘防止法により、一年以下の拘禁刑もしくは百万円以下の罰金だから。」



本当に5分経ってから私を助けに来た六神。タイムキーパーは防水用の腕時計をする池駒だった。あとから絶対にいじけておこりんぼアピールしてやる。



ただ私の対応力を参考にした今後の六神の営業に、その勧誘防止法が引っかからないことを祈る。



「いやだから勧誘じゃないって。」

「彼氏かよ。いるなら先に言えよお姉さん。」


「うちの子照れ屋だから。彼氏がいるって素直に言えないんだわ。許してやって。」


「…ま、まあ彼氏に免じて許してやるよ。」



六神の外見は同性にも有効だということを忘れてはいけない。さっきまで私にゾッコンだったお兄さんたちが、完全に六神に目を奪われている。おいこら。



六神が私の頭に手を置き、軽くぽんぽんと叩いて。それから私のポニーテールにした髪を何本かの指で流しながら、背中に一本の指を這わせる。



お兄さんたちには気付かれないように。



肩甲骨のくぼみあたりを撫でて、それから真ん中の背筋をツー…となぞっていく。



一瞬、びくりと身体が反応して。恥ずかしくなって、六神の羽織っていたパーカーの裾をつかんだ。




「それと。虚乳って言ったやつ、どっち?」



彼らよりも背の高い六神が、交互に二人を威嚇して。金髪のお兄さんが、慌てて銀髪のお兄さんを指さす。


 

「俺の美乳、気安く見ないでくんない?」



今にも脳を占拠しそうな六神の射殺すような眼差しに、お兄さんたちが喉元をごくりと鳴らした。



でも。



「六神ごめん。この水着、パッドが分厚いから私今ほんとに虚乳なんだわ。」


「じゃあ、その自尊心からくる虚栄心で凝り固められた俺の美乳。って言い方でOK?」


「よし、一旦胸から離れよ六神。」



お兄さんたちがそろりと離れていって、ふと池駒の方に目をやれば、なぜか女子二人に囲まれていた。



「あっちもこっちも頼むわほんと。」



六神の気怠い声が、さんさんと照りつける太陽に溶かされていく。

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