第215話

「えーと……、水絵さん、ここで働いてたんですね…。」


「…は?私名刺渡さなかった?渡したよね?なんでわざわざここに来ようと思うわけ?頭おかしいの?」 

 

「あ…すみません、名刺どっかいっちゃって。」


 

まゆゆが「…合法の知り合い?」と小声で聞いてくるので、そっと「グレーゾーンの知り合い。」と返しておいた。



「あなたねえ、仮にも社会人なんだから人様の名刺失くすとか立派なマナー違反だからね?!」 



水絵さん、あなたがやった六神の脅しについては立派な違法なんですけど。



ため息を吐く水絵さんが、「で、どのプランで予約したいの?」と肘をつきまともに接客をしてくるので、まゆゆがいやいや持っていたパンフレットを見せた。その時だった。



「俺は水絵と二人でゆっくり伊豆の隠れ家的ホテルに泊まりたいんだけどな。」



カウンター前に座る私たちの後ろから、レザーのキャップを深く被った青年が身を乗り出して言った。丸い色付きサングラスとマスクをしていて、怪しさ100%だ。



でも、あんぐりと開いたまゆゆの口からは。


 

「…………うそ、磯良いそら亜泉あずみ……?」



知らない名前が出てくるから知り合いなのかと思ったのだけど。



「お姉さん、俺のこと知ってくれてるの?」


「……しし、死しし知ってるもなにも……。わ、わわわたし、RainLADYの大ファンで……」


「あ、やっぱり?鞄にライブのチャームつけてくれてるもんね。嬉しい♪」 

 


事情がうまく把握できない私は、そのまゆゆの口から出たRainLADYという単語よりも、水絵さんの顔に釘付けだった。



だって、顔を真っ赤にして、人間みたいな顔してるから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る