第206話

「抱かれにきた。」


 

そう一言、六神の顔を見ずにつぶやけば。



「……ちょっともっかい言って。」



聞き取れているはずの六神が、私に二度目を要求する。



だから今度は、六神の目を見ながらはっきり言ってみた。



「六神と、セックスしにきた。」



言ってから後悔した。



『むーがみ!セックスしよっ!』



こう言えばよかった。こう言えばかわいかったかもしれない。もう一度言ってみても大丈夫だろうか。



「いいの。泣いてもやめないけど。」



私が三度目を迷っている間にも、先を越されて。



疑問形にも成さない言葉に、小さく頷けば。あっという間に腕を引かれて、部屋の中へと吸い込まれた。



「こいよ」

「っ、」




薄暗い玄関で、壁にぬわれるよりも先に奪われる唇。



口内をまさぐられ、全身の温度が狼煙を巻き上げて。玄関の隙間風と共に逃げ惑う。



とても待てないと、余裕なんてものはプライドと共に捨て去られ。無我夢中に齧りつくようなキスで、息する暇もなく責め立てられていく。



「んっ、ふぁ」


「息継ぎ下手くそか」


「あ、んたが、余裕なさすぎなんっ」


「喋る余裕あるならなくすけど?ん?」



荒々しい手つきで私の左手を壁にぬい合わせて、獰猛なまでの指先が私の自尊心をくすぐり始める。



「たまにはスカート履いてこいよ」


「あ、…やっ、こんなとこで…」


「急かしてみ?そしたらベッド連れてってやるから」


「な、に言っちゃッてんの」


「春風ならやる」


「ん"、るさいっ」



耳につく生温い水音に羞恥を煽られて、先に折れるのは私か、六神か。


 

「はや、はやくっむり、」


「あー、たまんなー」



横抱きに持ち上げられて、悪友としての私たちが幕を閉じた。

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