第197話

「六神、今度の休み暇?」


「暇だけど。」


「遊んで!外出るのが面倒なら六神んち行くし。」


「……うーん。俺オーダー枕買いたいから買い物付き合って。」


「……うん。いいよ。」



なるべく二人きりにならない空間で会っていたことの方が多かったように思う。抱えきれない罪悪感がのしかかって、手が出せなかったというのが本音だ。



いい年した男女が、健全なキス止まりのまま半年を過ごすなんて。春風にも違和感を与えていたことは自覚していた。



それでも画像が消せなかった俺は、何に執着しているのか自分でも分からなくなった。春風なのか、スマホの中の春風なのか。それとも。泣いている春風なのか。 



春風を泣かせるのが怖かった。今にも泣き出しそうな場面で、わざと悪態をついて気を反らせて。



泣いている春風に何をするかわからない、何かをして嫌われるのが一番怖い。







『わかってる ほしんでしょっ♪』


『………』



吐瀉物事件の時、酔っぱらって『大人ブルー』を歌いながら馬乗りになられた時はどうしようかと思った。



いや、どうにもならなくて、無我夢中で春風を抱いた。



罪悪感を抱えながらの俺にとっては、それが重大な第一歩にも関わらず、当の本人は全く覚えていない。単純にむかついて、春風を怒らせた。悪いのは俺なのに。



そのせいで水絵に運悪くつけこまれて、課長にも邪魔されて、それがあんなにも上手くねじれて。俺たちの物語はよくも悪くもウィットに富んだ。だいぶ彷徨いながら時間を無駄にした事実は否めない。





 

  

朋政課長は恐らく、俺が春風のいる会社に転職するために農政局を辞めたと思っているだろう。俺もそう言って春風に嘘を吐いた。



春風のためなら春風にも嘘を吐ける俺のゆがんだ愛情は、佐渡への報復までもを含めて始めて意味を成す。そこまでの愛情を俺に向けられてしまった春風は、かわいそうでかわいい。


 

そんな春風の視界に飛び交う害虫を駆除しようと、俺は課長への牽制と海外赴任への後押しをすることにした。



さっさとオーストラリアでも南極でも行きたきゃ行けばいい。むしろ世界の果てまで行って戻ってくるな。

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