第196話

「六神君ってさ、実来と同じ大学だったんだよね?」


「あ、はい。そうですけど。」


「実来が楽しそうに君のこと話してたよ。」


「……まじっすか。」


「照れた?」


「いや…そうでもないです。」



課長が、持っていた缶コーヒーを、喉を鳴らしながら一気に飲み干す。



俺は唖然としてそれを見ていた。



「はーそっかあ。やっぱなあ。」


「………え、」


「廊下で実来と話してる時の六神君の顔、ちょっとやばいよね。」


「………は?」


「僕のところまでおいでよ六神君。」

 

「…………」


「僕と同じ位置まできたら、とりあえず同等の敵としてみなしてあげるから。」


「…………うざ。」



宣戦布告してきたのは向こうだ。あたかも春風と課長の関係を、俺にもっと意識させるかのように。鬼というよりも悪魔に近い。



でも結局朋政課長は大企業相手に出張が相次ぎ、忙しく飛び回っていて、春風と会える時間も減っていったのだろう。



入社してから一年半で、ようやく付き合うことになった俺と春風。



ここまで長かったと、ほっと胸を撫で下ろしたはずなのに。



付き合うことになった瞬間、あの時の罪悪感が一気に溢れだす。



自分のスマホには、泣く春風の画像が入っていて、もしあの時俺が撮っていたなんてことがばれたら。きっと一生春風には軽蔑の眼差しを向けられることだろう。

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