第190話

うちの大学には課外講習というのがあって、公務員試験に向けた試験対策を、外部からきた教師がカリキュラムを組んで授業外に行うというものがあった。



当然別料金にはなるが、特に趣味もない俺は、バイトである程度貯金があったため、公務員試験対策のカリキュラムを受講することにした。



その試験勉強中も頭の中には、春風の泣き顔と、佐渡への憎悪しかない。 



トイレの盗撮事件の時に居合わせた女子二人組のうち、一人に告白されたが、好きな人がいるからと断った。



そこまで言っておきながら、春風本人には声を掛けられない俺のヘタレさ。 


      

その時に声を掛けられていたなら。こんな面倒な回り道なんてすることもなかったのかもしれない。






 

農政局内定までの道のりは予想以上に大変だった。



目指している地方農政局の採用人数が、その年に限ってたったの7人で、どれだけストイックに勉強や面接対策をしてたって受かる気はしなかった。やればやるほど足りないと感じる日々。



それでも無事、一次試験である筆記は合格した。



一次試験の倍率は3倍程度だったが、そこから官庁訪問や面接で一気に絞られていくため、そのための対策で4年生の夏休み期間も何度も就職センターに訪れていた。



そこまですることに意味はあるのか、だなんて自問したことは一度もない。自分のためにここまで必死になれたことなんて過去に一度もないというのに。



ただ農政局に入社したとして、辞職理由なんて何も考えていなかった。





 

梨添なしぞえさ~~ん!わたし、もう一生決まらない気がする!生きてけないっ」



面接対策のため就職センターに訪れていた俺が、カウンターで職員と話している時だった。



就職センターの入口から死んだ魚の目でゾンビのようにふらふらしながら入ってきたのは春風だった。



カウンターにへばりつくように倒れて、梨添と呼ばれた女性職員が春風の元に寄る。

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