第191話

「実来さん、大丈夫。事務職はまだ残ってるから。」


「だって最終まで行ったのにスーパーの店長候補勧められたんだよ?もう3月まで就活しなきゃなんないかも~。」


「ほらこれ。2次募集のある会社調べておいたから。こことか待遇よさげじゃない?」

 

「どこ?…海運?央海倉庫…?海運って、なにがいいの?」


「え、なにって…。ああ、海が近いよ!」


「え!海?!どうしよう私泳げない!」



海運がどうライフセーバーに結びつくんだよ?と心の中でつっこみながらも、春風の明るい声がたまらなくかわいいと思えた。その時だった。




「あれ?あなたも4年生だよね?」



職員が資料を取りに行ったタイミングで、まさかの春風に声を掛けられた。やばい。見すぎたかもしれない。



「…ああ、うん。」


「内定貰った?」


「いや、まだ……」


「え!いっしょ〜!」



春風の顔が明るくなる。同類だと思われたのが不本意だ。



「ねえ、その涙ぶくろって、自前?」


「………は?」


「あ、ごめん!あまりにもいい涙ぶくろだったからつい。」


「でも俺、一重だし。」


「一重で涙ぶくろがあるなんてかわいいじゃん!」



かわいいのはお前だと口から出かけて、慌てて咳払いで誤魔化した。



その後すぐに職員が来て、話はそこで途切れてしまったのだが。



春風と話せて、俄然やる気が出てきたのも手伝って、俺は本当に農政局に入社することとなった。



佐渡からも大学からも散々感謝の言葉を並べられて、入社前には農政局の局長に誘われて、居酒屋に飲みにも行った。



だから絶望した佐渡を思い浮かべるのが、その時から楽しくてしょうがなかった。

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