第188話
後期の始まる直前、夏休みの終わり頃。
ゼミの佐渡に呼び出され、再び大学に来ていた俺。午後からバイトがあるっていうのに、朝から直接会ってどうしても話したいことがあると言われた。
「……は、農政局?」
「ああ、僕の先輩が今農政局の局長をやっていてね。斡旋とまではいかないけれどパイプはあるから。優秀な生徒に毎年こうして声掛けをしているんだよ。」
「でも農政局って相当な難関でしょ。いくらパイプといっても最初の試験に通らないことにはどうにもならないと思うんですけど。」
「まあ正直な話、農政局に採用された直近の生徒は、もう4年も前になるんだよ。」
毎年農政局の行政枠(一般枠)の採用人数なんて10人にも満たないし、倍率でいえばとんでもない数字になる。
佐渡は大学の知名度に貢献できるからと言っていたが。恐らく、もし佐渡のゼミから農政局内定者が出れば、佐渡の評判と評価が上がるのだろう。
そこまで読んでいた俺だったが、別に農政局の仕事に興味があるわけじゃないため、その場で断った。
帰り、涼しい法学部棟から外に出るのが嫌になり、一階の自販機で缶コーヒーを買っていると、非常階段から上へと昇っていく眼鏡の生徒が目についた。
手ぶらで、この夏休み期間に何しに来たんだと思いながらも、ロビーの椅子に座りスマホを取り出す。
ここ毎日、ずっと彼女のことが頭から離れず、気付けば画像の彼女を見つめていた。
半ばストーカー行為のようなやり口に罪悪感を持つこともなく、ただ春風の泣き顔に恋をしていた。
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