第186話

まだ夏休みに入ったばかりの校内はいつも以上にだだっ広く感じた。



掲示板にはそこらじゅうに痴漢注意の貼紙が貼られていて、喚起を促す原色の色合いがさらに暑さを助長させている。



通関士の試験を受けていた俺は、無事合格し、資格センターから呼び出しを受けていた。なんでも資格援助の一つとして、図書カードが貰えるらしい。それを受け取りに来ていた。



人のいない校内は、閑散としていながらも穏やかな空気が流れていた。



だから、研究室から出てきたゼミの佐渡とそれを追いかけていく春風の姿が目立ってしょうがない。



ただならぬ雰囲気に、ネタを補充するためにも観察することにした暇な俺。



なんとなく、くだらない痴話喧嘩だろうと思っていたから今となってはそんな俺を殴りたい。


 


駐車場までついて行ってみれば、セミが騒がしく合唱する中、彼女の必死な声が聞こえてくる。



夏の陽炎に目眩を覚えながらも、佐渡がなぜか金を渡しているのが見えた。



でも春風は躊躇して、一向に受け取る様子はなく。しぱらくして佐渡が何か言ったのをきっかけに無理やり手渡されていた。



その場で立ちすくむ春風は、膝丈のワンピースを着ていた。今思えばあの頃はよくスカートも履いていた気がする。 


 

明らかに悲壮感を抱いている様子の彼女。



足取りがフラついていて、今にも倒れるんじゃないかとまた俺は後をつけた。

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