第185話

春風を意識し始めてからの経過といえば、水絵との縁を切った経緯よりもさらに深くなる。



俺が吐いた嘘は、嘘よりもずっと執着まみれの醜悪なもので。



そこまで自分を突き動かしたものが、たった一人の春風という同級生でしかないのだから、俺はしっかりゆがんでいるといえてしまう。





 

春風の最初の印象は、ウザいでしかなかった。なんせ何百人といる生徒の足止めをする質問魔なのだから、迷惑な女以外の何者でもない。



しかも春風は、佐渡教授と関係を持っていた。



法学部棟の最上階にある研究室フロア。たまたま他の教授の研究室にレポートを提出しに行った時。周りを気にしつつも、どこか恥ずかしそうに佐渡の自室に入っていくのを見かけたことがある。



そのドアの前を、息を殺して通れば、男女の息づかいが細くも聞こえてくれば、当然嫌悪を抱かずにはいれない。



第三者の俺からすれば、普段は純粋の皮を被った、教授に取り入る悪女にみえた。



取り入るためにあいつはあんなに質問をしているのかと。授業を中断してでも質問すれば、他の生徒のためにもなるとか、菩薩思考で周りからの評判も上手くかっさらっていって。



コミュ力のない俺には、春風への妬みも入っていたんだと思う。

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