第181話
「先生、あの。ちょっと質問したいことがあったんですけど。また今度来ますね。」
「あ、君か。いや恥ずかしいところを見られてしまったね。大丈夫だよ。なんだった?」
私に大学教授のことはよく分からないけれど、教授同士の派閥やいざこざがあるというのは分かった。
佐渡教授は若くして教授という地位に就いてしまったというだけで、周りの教授から反感を買うことが多かったようだ。
「研究費や科研費だって結局は奪い合いみたいな世界だからね。やっかみを買うのは覚悟の上だったんだけど。」
「……厳しい世界なんですね。」
「そうだね。でも実来さんの顔見たら嫌なことも忘れられるよ。」
細みのフレーム眼鏡を、佐渡先生が広いデスクの上に置く。
疲れを含む目元を指でマッサージをする先生は、その日もきっちりネクタイを上まで締めていた。
「先生、私でよければ肩、マッサージしましょうか?」
「はは、こんな若い子にしてもらえるなんて。役得だなあ。」
先生が座る後ろに周り、ごつごつした肩に手を置く。骨ばった身体つきで、ちゃんとご飯を食べているのか心配になった。
「プロテインバーだけじゃなんの栄養もないじゃないですか。」
「たんぱく質と炭水化物はそれなりに配合されてるよ?」
「それならたんぱく質含んだおかずとご飯食べ下さいよ〜」
何気ない会話で、一つも色っぽい雰囲気になる要素なんてなかったはずなのに。
「女の子の手って、こんなに柔らかかったっけ。」
独身の先生は、女の人に触れられたのが久々だとでもいうように。肩をもむ私の手をつかんだ。
「……せ…先生?」
「……ごめん。いやなら、逃げてくれて構わないからら、」
「え、」
「でも実来さん、君が可愛いからこうなるんだよ。」
先生に手をつかまれたまま、軽々と抱っこするように持ち上げられて。気付けばデスクの上に寝かされていた。
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