第180話

大学3年生の頃だった。



早いところだとインターンが始まって、授業数も2年生に比べて割と少なくなってきたせいか、大学に来る友達も減ってきていた。



2年生の後期から3年生の前期までの単位取得で、佐渡先生の国際私法という授業を履修していた。



40才という若さで教授になれてしまった佐渡先生は、年齢よりも若々しく生徒にもフレンドリーな対応で、生徒には比較的いい印象を与えていたと思う。



当の私は、最初は恋心を抱いていたというよりも、死んでしまった父の面影を追っていたといった方が正しい。



2年生の頃から友達と佐渡先生の研究室まで質問しに行ったり、直接レポートの提出をしに行くうちに、ついでにお茶やお菓子をごちそうになるほどの仲になっていた。



でもそんなある日、私が一人で授業の質門をしに行った時のことだった。






『君の論文は確固たる概念を根底から覆している。我々年寄への冒涜としか思えない!』


『いえ、決して私はそのようなつもりで書いたわけでは』


『次の学会でこんなものを提出しようもんなら君をこの大学から追い出すぞ!』



そんな罵声が研究室の中から聞こえてきた。



佐渡先生よりもずっと年上の先生が、佐渡先生の研究室から憤慨した様子で出てきた。



その先生は私がいることにも気づかず、廊下を速足で歩いて行くからよほど怒っていたのだと思う。



そっとドアから佐渡先生を覗いてみれば、机に手をつきため息をついていて。



すでに開いているドアをとりあえずノックする。

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