第175話

仕事終わりに、比較的人が少ない駅のショットバーで待ち合わせたをした俺と不死原。酔わせて不死原の弱みを握ろうなどとは微塵も思っちゃいない。



「つまり報酬よりも、俺の何かしらの弱みを人質に、その“稲垣さん”を調べてほしいと、そういうこと?」


「就職センターで働く不死原に似合いすぎるほど美しい年上の彼女を人質に、とは恐れ多くて微塵も思っちゃいないけど。」


「それなら今日のこの話はカフェでパンケーキとか、公園でシーソーしながらでもよかったわけだけど。」


「俺と不死原が、二人で?そっちのがよっぽど弱みになりそうなんだけど。」



報酬として、ちゃんと大人の嗜み程度の金額を払うつもりだったが、報酬はその脅されているネタと後日結果を報告するだけで充分だと言われた。


 

「その稲垣さんって女が地の底に落ちることを祈ってるよ、六神君。」



そう別れ際に言った不死原の笑顔は、美しくも悪徳商法で好成績を収める営業マンのようだった。





後日不死原から送られてきたメールは、



『心理学部○年卒 稲垣水絵(レオン・水絵・サニー)

○年○月 サニーファクトエンターテイメント内定済』



という情報で、添付された画像を見れば、若い頃の黒髪の女が写っていた。



レオン?サニー??どんな貞子離れした名前だよ貞子。見た目からは想像もつかない外人訛の名前が書かれていて、怪訝に思わざるを得なかった。



昔卒業旅行のためパスポートを取りに行った際、二重国籍でパスポートに別名併記ができると記入例で見たことがある。ハーフで両親の国籍が違う場合は、別名として名前を二つ持つこともあるらしい。

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