第174話

俺は、お返しに水絵の弱味を握ろうと試みていた。でもスマホは当然ロックがかかっているし、寝ている間に盗み見みれたものといえば免許証のみだった。



もしかすれば“稲垣水絵”という名前を大学から辿れば、水絵の綻びが出るのではないかと思いついた。



桐生きりゅうに助けを求めたなんて人生の汚点でしかない。



不死原叶純ふじわらかすみと連絡取りたいんだけど。』

 

『は?いいと思うけど理由によっちゃ駄目だと思う。』


『資格試験で卒業証明書もらいに行きたいんだけど。必要書類を教えてほしい。』


『あーわかった。正当な理由によるなら聞いてみるわ。』



文学部所属だった学び舎の王子こと不死原叶純ふじわらかすみは、今俺たちの母校で大学職員として働いているらしい。



桐生曰く、不死原の彼女が大学で働いているから不死原も就職したということらしいが、俺も実来を追って今の会社に転職しているため、恋は盲目という言葉を如実に感じてしまう。



桐生が不死原に取り次いでくれたお陰で、俺は無事、不死原と会う約束をとりつけることができた。






「同じ大学でも全く接点のなかった俺に何のようですか?法学部学籍番号L1075の六神千都世くん。」



「今は法学部所属じゃない。農政局をわずか1年半で辞職し、推薦者である佐渡教授に汚名をきせて、今では央海倉庫横浜支部国際営業部三課にのうのうと所属してますけど。」



「いやあ会ってすぐに自ら手札を並べてくるあたり、どうやら美徳商法を持ちかけられる話じゃなさそうだね。」



「話が早くて助かるわ、頭のいい不死原くん。」

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