第169話
カフェスペースには、小動物カフェには似つかわしくない、壁に掛けられた小型のテレビがついていて、なぜかまゆゆの好きな“RainLADY”のライブ映像が流れている。
その時のRainLADYの映像は、水絵さんの話を冷静に聞けるいい安心材料になっていた。
「ねえ見て、この腕時計。」
水絵さんが、その華奢な腕に着けられたカジュアルな金属ベルトの腕時計を見せてきた。
文字盤の背景が濃紺で、粉砕されたストーンが散りばめられている。
「まるで、星が散りばめられた夜空みたいな時計じゃない?」
言われずとも星空にしか見えない。私のパソコンのスクリーンセーバーで見慣れているものだ。
「これね、ちと君が私にってくれたの。」
ベッド事情を聞いた今さら、もう何を聞いてもショックはないと思っていたけれど。
…それって。六神がセフレに腕時計をあげるって。どうなの?
急に目の前がぐらつくように、三半規管が乱れだす。
水絵さんの向こうに見えるアイドル映像がかすんだ。彼女に悟られまいと下唇を口内で噛み、痛みでしのぐ。
水絵さんは見透かすように口角を上げて、「オモシロ」と呟いた。
「ちと君もはるかちゃんも、見てて飽きないわ!ふふふ」
「……貰ったものを大事につけて、朝もわざわざ六神を会社まで送ってきて、それでただのセフレって。おかしくないですか?」
「…朝?ああ、会社まで送ってったのは、はるかちゃんの存在を確かめるためだよ。」
「……え」
「会社まで送っていってあげようか?ってちと君に言うとね、いつも視線が少し泳ぐの。」
何を言っているのか分からず、アイスティーにも手がつけられないまま、溶けかけの氷が音を鳴らす。
水絵さんが自身のスマホを取り出すと、画面をタップし始めた。
「ああ、あった、これこれ!」
そう言って、ニヤけるような顔つきをした彼女が、机にスマホを置き私に画面を見せてきた。
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