第164話

そこまで怒ることないじゃん。



大体、私たちって、付き合うことになったってことでいいの?六神は寝落ち間際に“大好き”だと言ってくれたけど。それを覚えてるのだろうか。



思えば六神は、私たちの関係が悪友でしかない時期でもよく怒っていた。



平気で先輩から貰った腕時計が私に見合わないと言ったり、先輩との電話を平気で邪魔したり。直接本人を前にして、盾突いたりもして。



もしかして六神って。思ってる以上に重い?


 

「ごめんね。」のメッセージを入れてみれば、怒ってますよアピールなのか全然返ってこないし。勝手にふてくされてる子供みたいだ。



怒った六神にも上手く気持ちが伝えられず、朋政先輩にも断われず。そんな覚悟が定まらないある日のことだった。


 




会社を囲う柵の前に、見たことのある黒髪の女性が待っていた。コインパーキングには目立った赤い外車が駐車してあるのが見える。



キナリのロングワンピースに、小さめのショルダーバッグを肩から掛けている。モデル顔並みのスタイルに、嫌でも目がいってしまう。



嫌な予感が頭の中をぐるぐると旋回する。六神は確かに切ったとは言っていたけれど、よく考えたら別れたとは言っていない。



あまりにも物騒な切るという表現は、てっきり恋人同士が別れるよりも、もっとずっと絶命的なものだとばかり思っていた。



六神が勝手に自然消滅ということにしているだけで、貞子からしたらそうじゃないかもしれない。



自然消滅で別れたと思っていたら、実は相手はまだ付き合っている感覚で、本人も気づかない間に二股なんて事態に発展しかねない。


 

なんだって私が当事者になるのか。修羅場は第三者目線で見ているから楽しくて仕方がないというのに。



六神をここに呼んで問いただしたい気もするけれど、もれなく魔のトライアングルが完成して修羅場の路上パフォーマンスという好奇な目を向けられるのでよそうと思う。

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