第163話

「切ったよ」



へ?


  

「うそ。」


「うそついてどーすんの」


「え……だって。切ったって、どうやって?」


「頭からこうすぱーんとスイカ割りのように」


「それ切るよりカチ割ってるから」


「春風と海いきたい」


「ここ、港という名の海だよ」



私の所見では、少なくとも貞子は六神に対してそれなりの恋愛感情を抱いていると思っていたのに。六神が貞子の真っ赤な外車によって送られてきたのは一度や二度じゃないはずだ。



わざわざ朝から彼氏の会社まで送る女が適当な付き合いをしているとは到底思えない。よくそんなすぱーんと切れたものだ。



「ちょっとその切り方、私に伝授してくれない?」


「…………は?」



つい考えていた先の言葉が、私のゆるい口元からこぼれてしまった。六神にむかつきを与えられる私は、六神をむかつかせる天才かもしれない。



「……本気で課長んとこにいく気がないならすぐに切れるだろ。頭で考えるよりさっさと行動にうつせよ。」

  

「………いや、そうなんだけどさ、一応上司であり先輩であるからどう伝えればいいかなって、」


「はあ?お前のそういう八方美人なとこ、ほんと無理」



引き留めようと椅子から立ち上がれば、勢い余ったせいか椅子が後ろに倒れてしまって。気付けばすでに六神の背中は遠くの方にあって、私は頭を抱えるしかなかった。

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