第156話
わずかな隙間に残る、お互いの吐息。この距離感に、私はずっと惑わされてきて。
ずっとずっと前から私を知っていてくれたことに、私を想っていてくれたことに理解が追いつけば。軽いと思っていた私たちの始まりが、途端に鮮明さを伴い彩りを咲かす。
「私、手紙の最後にフルネーム書いたのに」
「うん、夜空みたいな便箋でね、背景紺色だからめっちゃ文字が見にくくてね」
「……私のこと、知ってたんなら。なんで話しかけてくれなかったの。」
「………笑わない?」
「場合による。」
「…当時の俺に、そんな勇気はなくてだな、」
「………」
「…むしろ笑ってくれて構わないんだけど」
六神という存在が確かに在籍しているのは知っていて、同じ授業を選択していた友達が六神を見て、「かっこいいけど話しかけにくいオーラがあるよね」と言っていたことがある。
勇気がないとか、今では大手企業を相手にする六神からは想像もつかないけれど。大学生の頃の勇気のない六神を知らないことが悔やまれてしまう。
「自分の仕事を放棄してまで、春風に会いにいく俺は、男として駄目な男?」
「……だめ、なわけ。ないよ…」
「転職したとこで、同じ支部で働けるかどうかも分からないのに。それでも一縷の望みにかけた俺って、軽蔑されない?」
「されるわけ……ないじゃん…」
「重いって思われるのが怖くて、春風には言えなかった」
「重くたって、いいのに」
「……やっぱ重いんじゃん」
「…………」
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