第153話

甘える仔犬の姿から狼にすり替わる六神が、私の胸の間をひと舐めする。



「や、やめ」


「いかないって言うまで、やめない」



今度は胸の真ん中に強く吸い付いてきた。それは罰なんかじゃなく、契約の証であれば今すぐにでも六神の期待に応えられるのに。



「痛、」

 

「あの人、先にモノで釣って、結婚をあらかじめ公言するあたり、春風の逃げ道なくしてるだけだし」


「……でも、猶予もらってるし、」


「色々天秤にかけさせて、合理性を考える時間を与えるって。そっちのがよっぽどこえーわ」



そんな、勝手に必死になられても。六神には彼女がいる癖に、なんで私だけ、いくな、なんて言われなきゃいけないの……


  

「……ひ、ひど。じぶんには彼女いる癖に、なんで私ばっかりいわれなきゃ」 

 

「じゃあ言えよ」


「え、」


「いかないでって。他の女のとこいくなって」


「っ、」


「たまには俺にさ、かわいくねだってみれば?」


「…………い、」


「い?」


「……いかないで、ほしい、かも…しれません」


「……あまりにも不安定」



六神が今度は、私の胸の突起を舐め始めて。頭がまっしろにならないよう、気を確かに持とうと六神の頭を叩いた。



「じゃあ、なんであんた!……農政局で働いてたこと…私に隠してたの……」


 

まだ私の自信は満身創痍ではないまま、一番気になってたことを聞いてしまった。叩かれても特にびくともしなかった六神が、胸から顔を上げて私を見る。

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