第152話

六神の熱い指が、ブラウス越しに伝わる。鼓動も呼吸も、私の生に関する全てのものが六神の指に制圧されていく。



六神によって生かされているのではと錯覚させられるほどの不整脈を感じて。このまま離れられないかもしれないと目の前の悪魔がそう思わせてくる。




「あー……美乳ばんざい」


「なっ、なんで熱あんのにそんな元気?!」

  

「なんでって。春風が俺の手の中にいるからじゃん」



ブラジャーのホックを外されて。ブラウスもブラジャーも肩から流すように脱がされて。胸を露わにさせられる。こういう作業まで有能なのはいかがなものかと思う。



「……ねえ、あの、ほんと…まずいんじゃ」



腕で前を隠そうとすれば、腕を避けられ、言葉通りに六神の顔が私の胸の真ん中あたりに埋もれた。息がくすぐったくて身体全体をひくつかせる自分が、まるで六神を誘っているかのようで、自分を責めた。



「……せ、せふれになんて、ならないから。」



言葉にしなければ、消えてしまいそうだった。なんの確約もないまま身体を重ねることは、私自身をも裏切ることになるのだから。



彼女でいたい。まっすぐにそう言えたらどんなにいいか。



私は六神に応えを委ねようとするのだから、ずるい以外の形容が思いつかない。別れたことにしてしまった罪は、私にしかないというのに。



「……頼むから、いかないで」


「え、」 



私の胸に埋もれるその声は、あまりにもか細く、今にも消えてしまいそうだった。



「お願い、」


「な、なに、」


「課長のとこ、いくなよ」


「……っ…」

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