第150話
外の豪雨でいつ電車が動くかも分からないし、私たちはその駅で一旦降りることにした。
タクシーも大混雑で、その列も列を成す意味があるのか分からない。
傘も無意味のため、もう海から這い上がってきた海坊主と半魚人のようだ。港というのは、周りにいくつものホテルがあるから、まだうちの会社の近くでよかったと思う。
とりあえず近場のビジネスホテルにフラフラな六神を連れて乗り込んだ。
「あー、疲れた〜!!」
私がぐちゃぐちゃになった靴と靴下を脱いでいると、六神がそのまま濡れた状態でベッドに倒れ込もうとするので、慌ててそれを阻止する。
「待って、風邪、悪化しちゃう」
六神のびちょびちょなシャツを脱がしにかかる私。
付き合っていたのに、一度も六神の裸を見たことがなくて。貞子は幾度となく見ているのかと思うと胸の奥が軋む。
ベッドの縁に座る六神のシャツのボタンを、慣れない手つきで外していけば、引き締まった浅黒い男の肌が現れて。動揺で手が震え始める。
いつもならからかわれそうなところでも、六神はそんな私の手をじっと見つめているだけだった。
「……さ、さむい?」
顔を覗き込めば、やはり意識がはっきりしないようで、まぶたが三分の一ほど落ちている。私をじっと、捨てられたイッヌのような瞳で見つめるから、タオルを取ってくることにして動揺を誤魔化した。
バスルームから取ってきた大きなタオルを肩からかけようと、座ったままの六神を覆うような格好になったところで。
「さびしい」
という六神の声と共に、ベッドに倒れ込みながら抱きしめられた。
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