第149話
でもその自制心を、IQが落ちた六神がストレートに打ち砕きにくるから、もはや打つ手がない。
「春風と、一緒にいたい。」
私が頬につけた手を取って、そのまま自分の頬に擦りつけるようにする六神。発熱した体温を上手く感じ取れない私の手が、六神の言うなりになっている。
「ちょ、…な、」
会社の人がいるのではと人目を気にしながらも、やっぱり私はそれを振り払うことができない。ほのかに香る六神の甘さには、パクチーにも似た依存性があるのかもしれない。
「だめ?」
「…だ、」
「お願い、春風」
確実にIQだだ下がりの六神は、熱によりいつもと違う生命体になっていた。
そんな困ったように涙ぶくろを主張されれば、拒否することなど当然できず。ただ私が即答しなかったのが気に食わなかったようで、少しだけサドい六神が姿をみせた。
「今日の見返り。ちょうだい?」
かすかに上げられた口角から六神の色香が放たれる。ただすでに夜とあってか、その色香は仄暗い妖艶さをまとうかのように変色気味だ。
グヌフぅという自制心を抑制するための擬態語が私の小腸あたりから発せられるも、単にお腹が空いていただけだったりする。
私たちの関係に美学を求めるのはどうかと思うけれど。私たちの仲をルネサンス期に生きた文豪たちに美しく表現していただきたい。
そうすれば少しは朋政先輩と貞子さんへの罪悪感が拭えるというものだ。
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