第145話

「まあ、そうですね。なんで辞職したかは、多分課長のご想像通りだと思いますけど」


「へえ、僕の想像通りってことは。六神君て相当ゆがんでるねー。だって、え?嘘でしょ?そんな理由一つで公務員辞めれる覚悟があるって。」


「まあ、自分でも少しはゆがんでる自覚ありますけど、課長みたいに外堀りから埋めようって程じゃありませんよ」


「いっそ“むがみ”君から“ゆがみ”君に改名しなよ。」


「あはは喧嘩なら低価格高品質で買いとりますけど?」


「てか農政局なんてよく辞めさせてもらえたね。たった1年半で辞職とか、どれだけ上司の肩書に泥を塗る行為か分かってる?」


「さあ?俺は辞職するつもりの部下でしかなかったんで分かりませーん。」

 


私には何一つ理解できない二人のやり取りに、言葉を追うことすら出来なかった。“ゆがみ君”と“低価格高品質”という言葉以外は。



六神がゆがんでいるというのは、態度と性格そのものに合致するものの。ただそれが農政局を辞めたことにどう繋がるのか、私には難問すぎた。



難問を考えてもお腹が空くだけなので放棄しよう。




それから会社まで送ってくれた先輩は、これから訪問する営業先があるそうで、そのまま別れることとなった。



「この仕事片付いたら二人でラグジュアリーホテルのレストランで地中海ディナー食べたついでに一泊でもしようね、春風!」



運転席の窓から、外に立つ私に言い放った先輩。やっぱり余計な一文を言い残して去って行った。



紙袋を持つ六神が、「言い逃げ反対」とつぶやくと、気怠そうな足取りでオフィスへと向かう。私も慌ててついて行こうとしたところで、六神の背中のシャツをつまんだ。


 

「待って、六神、」


 

どのタイミングで言おうかと悩むことなく、すぐにお礼を言いたくなった。六神がそっと肩越しに私の方を振り返る。

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