第144話

帰りの社用車の中で、絶対に泣くもんかと思いながらも泣いてしまった私。自分のミスで自分が泣くのは、あまりにも合理性を欠いているから絶対いやなのに。



本当に、こんな姿を六神にみられるのだけは……



窓を見ながら静かに涙を流していたこともあってか、六神も反対側の窓の外を見つめ、見てみないふりをしていた。



「…実来、会社着くまでにはその顔をなんとかしなよ?仕事はまだまだこれからなんだから。」


「……は、い。」



先輩は当然私に上司として振舞って、六神もそれに対してどうこういうことはなかった。



その時に、二人は営業でこういった事案にも慣れていることを実感した。



二人ともONとOFFの切替が当たり前のように出来て、緊急事態にも迅速に対応できて。自分のミスにより、その仕事ぶりを目の当たりにできたことを嬉しく思うことにした。



うちの会社の有能な二人が、今この場で私を同等の社員として扱ってくれることに、下手なりにも胸を張れそうな気がしたから。






「ところで六神君、一つ聞きたいことがあるんだけど。」



私が泣き止んだのを見てか、先輩が言った。



「なんで農政局辞めたの?」



窓の外から聞こえる風の音と共に、丸裸の手榴弾が投げ込まれた。窓に張り付いていた六神が、さすがに顔を前に向ける。



「…は、課長、俺の職歴調べたんですか?プライバシーどうなってんですかうちの会社。」


「たまたま、こないだ実来と農政局に証明書取りに行ってさ。その時に職員さんが言ってたんだよ。六神君は元気かってね。」



六神が咄嗟に泣き止んだばかりの私を見るも。視線が合った瞬間すぐに反らされた。で、なぜだか二つばかりの咳払いをする。そんなに今の私の顔酷いのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る