第143話
「あの、1万パックものシールも無駄にしてしまって、本当に申し訳ありません。」
私が震えながらに言うと、堀田さんが「シールの印字ミスで再打ち出しなんてのはよくあることなんですよ。」と優しくフォローしてくれた。
「提案なのですが、そのシール代と印字代はこちらで割引扱いとして請求分から引かせて頂いてもよろしいでしょうか。」
六神が、いつもと違う柔らかい口調で堀田さんに話すのを見て、思わず自分の目が見開いた。
「…ああ、それはそうしてもらえると大変助かります。さすがに2万パック分のシール代となると、採算が取れない事態になりかねませんから。」
成分表示シールというのは、印字が簡単に消えない様、特殊な加工が施されたものだと聞いたことがある。当然コストも馬鹿にならないはず。
機転を利かせられない私が六神にフォローされて、顔を上手く上げられなくなった。きっと六神はそのことも事前に考慮し、上司にも掛け合った上での提案なのだろう。
何も考えていなかった自分を恥ずかしく思い、先輩にはしゃんとしろと釘を刺されておきながら、項垂れることしかできなかった。
そんな私を見てか、堀田さんは再びフォローをしてくれるから余計に迷惑をかけているのだと理解する。
「あの、実来さんには本当に迷惑かけっぱなしでしたから。製造が間に合わず、船の再予約を繰り返している状態でしたし。数量の増減も急きょ変更になったりで、再申請も立て続けにお願いしていましたので。」
その言葉で私は堀田さんの目を見て、「いえ、」と首を横に振った。
「それでも実来さんはいつもマメに連絡を下さり、快く対応して頂きましたから。今回のことはどうか気になさらないでください。」
今にも泣いてしまいそうなくらい目は潤んでいたけれど。声を振り絞ってお礼を伝えた。
「ありがとう、ございます。」
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