第142話

味八フーズに着けば、中小と聞いていたにもかかわらず、そこそこ広大な敷地だった。製造工場も付随しているとはいえ、オフィスはガラス張りで、外からは屋上庭園も見える。



ロビーには横浜には相応しくない、名古屋の名産品、「でらうま餡サンド」というポスターが貼ってある。



先輩がこそっと「名古屋の名産品でも横浜で製造してたり、横浜の名産品が九州で製造されてるなんてことはよくあるんだ。」と教えてくれた。



先輩が受付の女性に声を掛ければ、彼女が先輩と六神を交互に見るやいなや、顔を赤くし声を震わせた。



担当者である堀田ほったさんが来るまで、待合室のソファで待たせてもらうことになった。



だたその間にも、先輩と六神は嫁と小姑のごとく言い合い合戦を繰り広げており。緊張感をくみ取ることなどお構いなしか。



私を間に挟んだ二人の攻防など、私の耳には入らない。心臓が早鐘を鳴らす中、謝罪時のマナーについてもう少し勉強しておけばよかったと後悔していた。




ドアのノックが聞こえたと同時に、先輩と六神がスッとソファから立ち上がる。私も慌てて二人にならった。




「お待たせしました!」



担当者である細身の眼鏡の男性、堀田さんが入ってきた。腕まくりをし、シールの入った紙袋を両手に持っている。



すると先輩と六神が、ゆっくり頭を下げ、先輩が言った。



「この度はうちの実来がご迷惑をお掛けし、大変申し訳ありませんでした。」


「申し訳ありませんでした。」



続いて六神が謝罪し、私もその後で謝罪の言葉を述べた。



緊張感をくみ取れないと思っていた二人が、嘘のように美しい所作でお辞儀をするのを見て、思わず息を呑む。



「いえ、実来さんには以前、嫌というほどこちらの要求を聞いて頂きましたから。」


「…ですが、冷凍を常温にしてしまえば変色などの問題も発生するかと」


「柚子皮はカナダで粉末にしてシーズニングに使われる予定ですので、多少の変色は問題ありませんよ。冷凍してたって変色はしますから。」



先輩が問題を提示したのに対し、堀田さんは大丈夫だと言ってくれているけれど。彼が腕まくりをして、こめかみに汗をかいているのを見れば、賞味期限を変更したシールを打ち出すだけでも大変な作業だったことがうかがえる。

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