第138話

「とにかく今から謝罪ついでに成分表示シールを取りに行くから。実来、身なりを整えて一緒に来て。」

 

「は、はい」



ミスが許されない年齢の自分が情けなくて、俯きっぱなしでいれば、先輩が軽く頭を撫でてくれた。



うちの山城課長なんて何もしてくれていないのに。自分の尻拭いは自分でという先輩の方が、よっぽど部下想いのいい課長だ。



この人の下で働けたことを誇りに思おうと改めて感じた。



「しゃんとしろ。怒られるほどの年齢じゃない癖に、僕があえて怒ってやってるんだから。」



怒られるうちが華と言われる新人時代を駆け抜けてしまった中堅というのは、ミスをした時、誰にも何も言われないのが一番辛い。そう、例えば私の父親や六神がだんまりになるように。何も言われないのが一番応えるのだ。



だから最近だんまりが減ってきた六神は、もしかするとそのことに気付いたのかもしれない。



じゃなきゃ、今ここで先輩に言葉をかぶせてくることもないはずだ。

 



「俺も、実来にはちゃんと怒りますけどね。」




ふと顔を上げれば、先輩はまっすぐと前を向いて、その瞳に閃光を走らせている。なぜか戦闘力がスーパーサイヤ人並に爆上がったようだ。



振り返れば、ベスト姿の六神が倉庫の入口から歩いてくるところだった。

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