第129話
六神が私を抱きしめる手に、一層力を込める。
「もしかして、課長と付き合う話になった?」
こないだから六神の精神が、おかしくて不安定だ。
なんで今。なんでこのタイミング。まだ別れたつもりないなんて話、こんなに時間が経ってからいうの。
色々今さらすぎて……ほんと、怖くなる。
「……付き合う話は、まだ保留中。」
「……待たせすぎじゃね?」
「先輩が、もうちょっと考えてほしいって。」
「あの人ちょっとマゾいの?」
「……け、結婚を前提に、ゆっくり考えてくれって、言われて。」
「…………」
六神の手が、急に緩んだ気がして、私はそのタイミングで六神から離れた。
「だ、だからあんたもさ、もうちょっと真剣に貞子さんとのこと考えてあげたら?」
「…………」
「い、いまさら…勝手すぎるよ。別れたつもりないって思ってたなら、なんですぐに言ってくれなかったの?!振り回されてんのはこっちだよ!」
いつだって振り回されてるのは私の方なのに。なんであんたがそんな寂しそうな顔してんの?
馬鹿みたいに私を見下してるのはいつだって六神の方なのに。自分の都合でそうやって急に弱々しくみせるなんて反則だ。
農政局辞めたこと私に隠してるのだって、どこかで常に優位に立ちたいがためで。どうせまたお前は俺の元に戻ってくるとか、自分のタイミングでいつだって好きに駒を動かせる王様気取りなんでしょ?
「あんたなんて、めっちゃ嫌い――――――」
私はもう一度六神の胸ぐらをつかんでやった。営業マンのシャツがシワになったところでもう私には関係ない。
だからさらに力を込めて、六神の顔を引き寄せた。
波間と波間を縫うさざなみの音が流れるなか、私は六神にキスをした。
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