第125話
早くもコンビニの棚からあんバターブリオッシュが撤退して、今はあんバターコッペパンが発売されている。
新商品に飛びついてしまった軽率な私は、目の前の六神に無心の表情を放っていた。頭の中とは裏腹に。
前職を隠してたということは、きっと私に知られたくない事情があるのだろうし。3回聞いても3回はぐらされているわけだし。
もしそこに踏み込んでしまえば、もれなく“実来ウザい”のらく印を押されて、もうここに六神は来なくなるかもしれない。
悶々としつつも、いまだ六神への想いが私の頭のすみっこで暮らしているかと思うと、それを無理に退去させることもできなくて。
付き合っている時のハニートラップの勢いって、何が引き金になったんだっけ。あの時の勢いが今の私には足りない。
塩すぎる六神が私の引き金を引いたことを思い出すと、今の六神は塩よりもけっこう甘い気がする。まさに今私が食べているあんバターのような感じで。
かといって女子にとっては大優勝である甘じょっぱいほどの味覚にも至らない、この朝からもったりとした感覚。
これが俗にいう、じれじれ状態のジレンマってやつなのだろうか。
「ねえ六神、」
「なに?一口くれんの、それ。」
「いやあんただって好きじゃないって言ってたじゃん。」
「でも嫌いともいってない。」
「そのどっちつかずな感じ、非常に人間味があって悪くないよね。」
「お前もね。」
あ、笑った。
六神の涙ぶくろと口が、いい感じに微動する。そのじれじれな笑顔が、どうか私のものだけになればいいのに、だなんて。
今さらそう思ってしまった事実には、朋政先輩に後ろめたさを感じるため、すみっこで借り暮らしをして頂こうと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます