第124話
海運業界で働く唯一の特権が、海に近いことだったりする。
私はこうみえて就活の時、エントリーした事務職60社のうち、試験や面接までこぎ着けたのは、たったの3社だった。
最終面接までいったのは2社で、内定を貰えたのは1社のみ。まかりなりにも自分は明るく威勢のいい人材だとばかり思っていたから、そのショックは当然大きいもので。
最終までいったもう一つの会社で言われたのが、「君はどちらかというと営業やスーパーの店長候補に向いているよ。」だった。私にはどちらも荷が重すぎるし、なるべく安定した職業で長く勤めていきたいと思っていたから事務に絞っていた。
だからたった1年半で公務員を退職した六神にイラつくのと、なんで辞めたのかという疑問と、なんで隠してたのかという疑問がずっと頭にあって。
今すぐにでも問いただしてやりたいのに、この男は今日も私の朝飯をたかろうとするのだ。
「いつの間にあんバター好きになった?」
あんバターコッペパンを恵方巻きのようにかぶりつく私に、六神が冷ややかに言った。
最近日課になりつつあった早朝出勤が定着する中、六神も六神で、私のテラスでの優雅なひとときを邪魔にしに来るようになった。
決して、六神がまた今日も来てくれるかも。という淡い期待などは抱いてなく。
どちらかというと、六神視点で、「今日も俺の実来はいるかなぁ♪んふふ。」という期待を妄想と共に抱いていきたいと前向きに検討している。
「前あんことバターは別々がいいって言ってなかったっけ?」
「反逆してみたいよね。たまにはさ。」
「どこの他国の衛兵だよ?素直に“美味しいと思うようになりました。”って言えば。」
「“おいしいと思うようになりたいです。”」
「小学生の感想文か。」
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