第119話

農林水産省管轄である農政局で働く職員は、国家公務員にあたる。



私からすれば、うちの職場みたいにバタバタしてないし、精神的な面からみても最高の安定安泰職業じゃないかと思う。もちろん採用試験はとんでもない倍率だからここで働くことは一生無理なんだろうけど。




そうこう考えているうちに、職員さんが証明書を出してきてくれた。



  

「……あ、これで合ってます。ありがとうございます!」

  


受け取った証明書の内容を確認し、職員さんにお礼を告げれば、彼が私の名刺を見つめて言った。



「……ああ、央海倉庫さんて。あの横浜港にある、」


「そうです。」


「てことは、もしや六神君と同じ支店かな?」 


「…………は?」



唐突に出てきたその名前に、先輩と顔を見合わせた。



「違ったかな。確か彼、横浜支店に配属になったって聞いてた気がするんだけどな。」


「……六神、って。六神千都世、ですか?」


「そうそう。女の子みたいな名前だから印象深くてね彼。」



そんなけったいな名前のヤツ、男でも女でも他にいてたまるか。と心の中でツッコミを入れて。その間にも先輩が職員さんに聞き返す。



「六神は確かに横浜支店で営業を担当しております。もしかして仕事でよく連絡を取り合っていらっしゃる方ですか?」

 

「仕事?ああ、仕事でも確かにお宅とは連絡取ることもあるけど。…もしかして、六神君にはなにも聞いてない?」


「……え?……まあ、僕は六神とは話をするほど仲良くありませんので。」



先輩がとびきりの笑顔で職員さんに言い放った。



職員さんが苦笑しながらも、私と先輩を交互に見る。



「六神君、前はここで働いてたんだよ。」


「「………え」」 


「せっかく約70倍って倍率の中採用されたのにね。そちらさんに転職するからって、退職しちゃって。」

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